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福島地方裁判所会津若松支部 昭和63年(ワ)97号 判決 1990年1月30日

主文

一、被告の昭和六三年三月二六日の臨時株主総会における取締役野上昭治、同北松友義、同目黒啓一郎及び監査役石川誠を各解任し、芹川澄夫、渡辺千里、金井進、寺島弘明、伊藤休治の五名を取締役に、住谷甲子郎を監査役にそれぞれ選任する旨の決議を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、被告の株主であり、かつ前代表取締役である。

2. 被告は、昭和六三年三月二六日、臨時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催し、取締役野上昭治、同北松友義、同目黒啓一郎及び監査役石川誠を各解任し、芹川澄夫、渡辺千里、金井進、寺島弘明、伊藤休治の五名を取締役に、住谷甲子郎を監査役にそれぞれ選任する旨の決議(以下「本件決議」という。)をした。

3. 本件決議については、次の瑕疵が存在するものであるから、取消されるべきものである。すなわち、本件株主総会当時、被告の本店所在地は福島県南会津郡只見町大字石伏字沢の下一三七二番地であった。被告の定款には別段の定めはないから、被告の株主総会は本店所在地又はこれに隣接する地において開催されるべきであった(商法二三三条)。しかるに、被告は、本件株主総会を右の地から遠く離れた東京都新宿区新宿六丁目一四番一号で開催した。したがって、本件株主総会は招集地を規定した同条に違反し、右違法な総会においてなされた本件決議は違法である。

よって、原告は、被告に対し、本件決議の取消を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1のうち、原告が被告の前代表取締役であることは認めるが、その余は否認する。

2. 同2の事実は認める。

3. 同3のうち、本件株主総会当時の本店所在地が福島県南会津郡只見町大字石伏字沢の下一三七二番地であったこと、株主総会の招集地について被告の定款に別段の定めのないこと、本件株主総会が東京都新宿区新宿六丁目一四番一号で開催されたことは認めるが、その余は争う。

三、抗弁

1. (商法二五一条による裁量棄却)

被告は昭和二四年に本店を東京都中央区銀座として設立された会社であるが、昭和四九年一一月一三日に福島県南会津郡只見町に本店を移転した。その後、被告の株主総会が登記簿上の本店所在地又はこれに隣接する地で開催されたのは右移転後第一回目の総会のみであり、そのほかはすべて東京都内で開催されたものである。その理由は、右移転後第一回目の株主総会において、多数の株主から、只見町で株主総会を開催すると出席が困難であり、全国の株主が参加できるように交通の便利な東京都内で開催してほしいとの希望が出されたからであった。そこで被告は、右移転後第二回目の株主総会から東京都内で開催したが、株主から開催地についてクレームがついたことは一度もない。原告が被告の代表取締役在任中も株主総会を東京都内で開催した。したがって、東京都内における本件株主総会の開催は、株主の出席の機会を保障するものであるから、実質的に違法はなく、本訴は商法二五一条により裁量棄却されるべきである。

2. (信義則違反)

原告は、被告の代表取締役在任中、株主総会を東京都内で開催したにもかかわらず、本訴において株主総会の招集地違反を主張している。また、原告は、被告の代表取締役在任中の不正行為を、新代表取締役等から株主に対し公表されるのを恐れて本訴を提起したものである。したがって、本訴の提起は信義則違反であって許されない。

四、抗弁に対する認否

いずれも争う。

第三、証拠<略>

理由

一、請求原因1のうち、原告が被告の前代表取締役であること及び同2の事実(本件決議の存在)は当事者間に争いがない。

二、本件決議の瑕疵について検討するに、本件株主総会当時の被告の本店所在地が福島県南会津郡只見町大字石伏字沢の下一三七二番地であったこと、株主総会招集地につき被告の定款には別段の定めがないこと、本件株主総会が東京都新宿区新宿六丁目一四番一号で開催されたことは当事者間に争いがない。

そうすると、商法二三三条によれば、株主総会は定款に別段の定めのある場合を除く外本店所在地又はこれに隣接する地に招集することを要するところ、本件株主総会が招集された東京都新宿区が、被告の本店所在地の只見町又はこれに隣接する地に該当しないことは明らかであるから、本件株主総会は同条に違反し本件決議は右違法な総会においてなされたという瑕疵を有するものと認められる。

三、そこで抗弁1(商法二五一条による裁量棄却)について判断する。

成立に争いのない甲第二号証の一、第三号証、第四号証の二の一、第四号証の二の二の二、乙第二号証、第六号証、第九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証及び第一五号証、証人渡辺千里の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1. 被告は、昭和二四年三月、商号を株式会社東京日創、本店を東京都中央区銀座として設立された株式会社であるが、昭和四九年一一月、商号を田子倉化鉱株式会社とするとともに、福島県南会津郡只見町に本店を移転した。只見町に本店を置いたのは、同町には大きな会社がなかったので、福島県から本店を同町に置いてほしいと言われたからであった。

被告の本店移転後第一回目の株主総会は昭和五〇年五月只見町で開催されたが、株主の中から株主総会を東京で開催してほしいとの希望が出たので、その後株主総会は東京都内で開催された。

2. 原告は、被告の株主の訴外飯島喜志の紹介で、訴外芹川澄夫(以下「芹川」という。)に代わり、昭和六〇年六月被告の代表取締役に就任した。原告は、昭和六二年七月被告の臨時株主総会を開催したが、招集地は東京都港区高輪であった。原告は、前例にならって東京都内で開催したものであり、本店所在地から離れた地で開催することが違法であるとは知らなかった。

3. 原告と芹川は、被告の経営をめぐって意見が対立し、芹川らは、昭和六三年二月福島地方裁判所会津若松支部に対し、被告の株主総会招集許可を申請し、同支部は同月二二日これを許可する旨の決定を出した。そこで同年三月開催されたのが本件株主総会であるが、招集地が前記のとおり本店所在地から離れた東京都新宿区であったため、同支部は、同年九月一日、被告に対し株主総会を招集せよとの決定を出したが、既に同年八月一六日、被告は本店を東京都新宿区新宿五丁目一五番一三号に移転していたので、只見町での株主総会は開催されないままとなってしまった。

4. なお本件株主総会当時、被告の株主は総数五六六名であり全国に存在し、只見町にも数名、福島県内には数十名の株主がいた。

以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、商法二五一条は、株主総会の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反する場合でも、その違反が重大でなく、かつ決議に影響を及ぼさないものと認められるときは、決議取消の請求を棄却することができると規定するので、以下検討する。

商法二三三条は、取締役による恣意的な招集地の選定を防ぎ、株主の総会出席の便を図るための規定であり、被告においても、一旦福島県南会津郡只見町に本店を定めた以上、株主総会を本店所在地又は隣接地と異なる地で開催するためには、定款で別段の定めをするか、本店所在地を変更することが必要であったといわざるをえない。被告は東京都内で開催することを株主が希望した旨主張するけれども、東京都内で開催することによって総会出席が不便となる株主もいた上、取締役による恣意的な招集地の選定を防ぐ同条の趣旨に照らしても、本件株主総会の招集地の違法の瑕疵は重大でないとはいいがたい。さらに、被告の株主は全国に存在するとともに、只見町を含む福島県内にも存在したのであるから、右違反が本件決議に影響を及ぼさなかったともいいがたい。

したがって、商法二五一条を適用することはできず、抗弁1は理由がない。

四、次に抗弁2(信義則違反)について判断する。

前記のとおり、原告は、被告の代表取締役在任中株主総会を東京都内で開催したけれども、それは前例にならったもので、原告自身東京都内で開催することが違法とは知らなかったことが認められる。

また、原告が、被告の代表取締役在任中の不正行為を新代表取締役等から株主に対し公表されるのを恐れて本訴を提起したとの被告の主張については、これを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本訴の提起が信義則違反であるとは認められず、抗弁2も理由がない。

五、よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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